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職業役者。
なぜボクシングを始めたのかというと、特に大した理由は無かった。
上京したての頃、今まで自分が踏み入れたことのない世界を見てみたかった。ただそれだけだ。

最初は興味本位だったし、男なら誰しも一度は強い男に憧れるものだ。
しかも立ってパンチを放つという極めてシンプルなルール。これなら格闘技経験の無い自分でもやれるのではないか、そう思った。

ところが、いざ始めてみるとなにやら様子がおかしい。
パンチが打てないのだ。いや、正確には「思ったように」パンチが打てない。
ミットはおろか、ぶら下がっているサンドバッグにさえ思った所にパンチが打てない。
結局、だいたい自分の思ったとおりにパンチが打てるようになるまで2年程かかった。

「ボクシングは下半身も大切」
パンチが打てるようになったころになんとなくわかりかけてきたことだ。
パンチを放っているのは上半身。だが、さまざまなパンチをさまざまな体勢で的確に打ち込んでいくには下半身が重要になる。
大砲にはしっかりした土台が必要なのと同じだ。
もちろん、頭では理解していた。ただ、身体レベルで理解できていなかった。
身体レベルで下半身の存在を認識しだしてから、本業の役者としての自分に変化がでてきた。

「だいたい」パンチが打てるようになったころから、役者としての幅を拡げるために舞台に立つようになった。
そういった現場で気づいたのだが、舞台に「立てない」役者が意外と多いのだ。
この場合の「立てない」とは、地に足がついていないフワフワした状態を指す。
感情を作り、必死にセリフを喋っているのだが、なんだかパワーが無い。
よくよく見てみると下半身がまったく使われていないのだ。
シリアスな場面のはずなのに、上半身は演技しているが下半身はプライベートで雑談している時のように片足に体重を乗せ、だらけている。
下半身に緊張感が無く軸も定まっていないため、声を支えられずパワー不足になっていた。

「役者は下半身も大切」
地に足をつけることを意識しだしてから、演技に安定感がでてきた。
ボクシングにも慣れ、会長やマネージャー、トレーナーから身体の使い方についてより多くのことを教えてもらった。
特に、体幹を意識した動作についてはことあるごとに教えられた。
体幹を意識した動作なんて普通の生活ではなかなか行わない。というか、そういう発想にいたらない。
だが、この「体幹を意識する」ということが、これまた役者として非常に大切なことであることに気づいた。
「体幹を意識する」と、身体の正しい位置がわかるようになる。
身体の正しい位置がわかるということは、いつどんなときでも身体をニュートラルにできるということ。
役を自分の中に落とし込むためには、まずニュートラルの状態でないと役がブレてしまう。
バランスが崩れた所に重いものを乗せても安定しないのと同じ。
これも、ボクシングを始める前は意識しなかった部分だ。

今後、より身体の細かい制御が出来るようトレーニングを続けていくつもりだ。
いまは「cm」単位だが、これが「mm」単位で身体を制御できるようになれば、より繊細な演技が出来るようになるはず。
「身体の細かい制御のトレーニングのためにボクシング?」と思われるかもしれないが、ボクシングは非常に繊細なスポーツであると思っている。
トップクラスの人達は、きっとmm単位で身体を制御できるはずだし、意識をしていると思う。
より繊細に、小指の先まで思いのままに・・・。
そういう意識は、確実に動きの精度を上げ無駄を削ぎ落とす。
無駄が削ぎ落とされた精度の高い動きから放たれるパンチは、確実に相手を捕らえ最速でなぎ倒す。

無駄が削ぎ落とされた精度の高い動きから放たれる言葉や感情は、確実に客の心を捉え強く胸を打つ。そう信じている。

別に役者全員にボクシングをやれと言うつもりは無い。
役者である自分にとってためになるならなんだっていいと思う。

ただ、あの暑い日に名誉会長から「難しいことは考えず、とりあえずやってみたら?」と言われた僕はラッキーだったんだろう。